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私の願望

【ぬばたまの 漆黒の市ヶ谷】

【ぬばたまの 漆黒の市ヶ谷】
「由紀、見てよ、薄曇りだけど、もう日が暮れていくわ」

 ここは根岸の路地裏の人目を忍ぶラブホテルの6階の部屋で、ベッドから裸のまま立ち上がって、窓を開けて北西の空を見上げながら火照った体を涼ませる若い女が呟いて・・

 さきほどまでの熱気が濃厚に籠ったままの寝乱れたベッドには、由紀と呼ばれた丸裸のままの女が、シーツも纏わないでしどけなく横たわっていて・・・

「そうお、直美! いいわね、その方角から今夜こそ翔んでくるかも、ね・・さ、早くこっちに戻ってきて・・もうあまり、時間がないのよ」

 無言で戻った直美にすがりつく由紀を、さも愛し気にしっかりと抱き起しながら、飢えて渇仰する幼児のように舌を差し出す由紀の唇に、唇を吸い付かせながら共にベッドに倒れ込むのでした。

 濃厚に舌を絡ませ合いながら、はげしく求め合う二人のもつれ合う姿と、切なく洩らす喘ぎ声が続いて・・・先程まで、繰り返し、繰り返し求めあった愛の証しをまた、改めて、貪欲に探り合い、求め合い、奪い合い、与え合い、舐め合い、舐り合い、擦り合い、体位を上下変えたり、戻ったり、乱れて重なり合いながらどんどん、昂っていって・・

「あぁ、多分、今宵こそよ、これが最後かもよ・・」
「あぁ、そうよ、いいよ、由紀、ああ、愛しい、もっと、そこ、そこを・・!」
「直美こそ、もっと、もっとして、あぁ、そう、いいわ、愛して・・!」

 お互いに隅から隅まで知り尽くした快楽を産む体の壺を探り合い、習い覚えたあらゆる秘術を尽くしてそこを悦ばせ合いながら、やがて、女のみが知る快楽の絶頂感の底知れぬ淵に沈んでゆくのでした。

 これは、これからやって来る今年(令和元年)の秋のお話(未来小説)です。

 11月24日の日曜日の午後のことでした。この日二人は、午後2時から千代田区の永田町にある星稜会館の大ホールで行われた第49回の憂国忌に参列して、その後、三島由紀夫ゆかりの根津の街へやってきたのです。

 二人は、いずれも市ヶ谷の防衛省の統合幕僚監部所属のレーダー監視室勤務の女自衛官ですが、憂国忌には私服で参加したのです。

 歳上の千賀由紀は、この宿の窓から森がみえる大学の数学科を優秀な成績で卒業したあと、志願して自衛官になりましたが、それは、得意のIT技術を活かしたいからでした。入隊後、実績をあげたのが認められて、やがて統合幕僚監部に特に配属になったキャリアがあります。大学在学時から美人の誉れも高く、言い寄る男の学生も多かったのですが、一切相手にせず、自衛官になった後も、浮ついた噂など全くない真面目な仕事振りでした。今年で28歳になった所です。

 もう一人の塚田直美は、由紀より3期後輩で、会津若松の出身ですが、苦学の末、仙台の大学の理論物理を専攻し、望んで自衛官になった後、福島の駐屯地に配属されていましたが、その高い独創性と冷静な勤務振りを買われて、昨年の秋の10月の定例人事異動で、市ヶ谷の統合幕僚監部に転勤させられて、やって来たのでした。

 最初に挨拶にやってきたときに会った由紀は、直美の背が高くて凛と引き締まった男勝りの美貌に一目で惹かれて、人知れず息を呑んだのでした。直美のその後の勤務態度は非の打ち所のない完璧なものでした。しかし、二人の付き合いはあくまで同じ職場の同僚という関係を越えないものに止まっていました。

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               その2  山の上ホテル

 あれは、昨年(2018年)の憂国忌のことでした。若い頃から三島由紀夫に深い興味を抱いていた由紀は、毎年、参加していますが、この日は驚いたことに、東京へ勤務を変えられたばかりの直美が参加してきたのです。入口で目敏くその姿を見つけた由紀は、駆け寄って迎えてあげたのです。直美も大変驚いたようで、立ち止まって、信じられない、という顔をしながら、目で由紀の目をじぃ~っと、見つめました。二人は、挨拶もそこそこに、隣り合わせの席に座って、会が済むまで一緒に過ごしました。

 行事がすべて済んだあと、2次会に誘ったのは直美の方からでした。深く頷いた由紀は、お茶の水の丘の頂上にある「山の上ホテル」に直美を連れて行ったのでした。

 ここは、まだ学生だった頃、大学通学の為に毎日通ったJRの駅のすぐ傍にあって、好都合だったのですが、リケ女でありながら、歴史や文学に深い関心を抱いていた由紀が好んで使っていたホテルだったのです。由紀はこのホテルが出版社の密集していた神田に近いところから、作家の滞在や缶詰(執筆促進目的の軟禁場所としてホテルに強制滞在させられること)に使われることが多く、そのため「文人の宿」ともなっていて、三島由紀夫をはじめ、川端康成や池波正太郎などが滞在した歴史をよく知っていました。特に、このホテルの看板の字は、三島由紀夫が執筆したことを聞いていたので、憂国忌の2次会に訪れる場所として、最適だと思ったのです。

 ホテルに向かうタクシーの中で、由紀は、東京へ来たばかりの直美に、この話をしてあげると、直美は大変、嬉しがってくれたのです。ホテルに着くと由紀は直ぐ、瀟洒なしつらえと行き届いたサービスによって知られるバーに案内したのです。学生の頃からよく独りで来て、おいしいカクテルを注文しながらバーテンと四方山話をする由紀のことは、ホテルの従業員もよく覚えていてくれたので、案内された片隅の落ち着いた席に向きあって座った二人は心から安らぐのでした。

 由紀があまりに詳しいのに驚いた直美は由紀に、今日の憂国忌に参加したことをはじめ、なぜそんなに三島のことに拘るのか、訊いたのでした。

 それが口火となって、ボーイが運んでくる美味しいカクテルを嗜みながら、極く自然に、話題は切腹の話になっていったのです。

 乞われるままに由紀は、三島も好きだけど、本当に好きなのは、ある事情があって、中学生のころから、女の腹切りに深い興味を持ったことを話ました。

 深く頷いた直美は、自分もまったく同じように、若い頃からず~っと、腹切りが大好きになってしまったことを、すなおに話してくれたのです。

 由紀は、母がまだ33歳の若さで、不治の病に侵されて亡くなる直ぐ前に、自分を枕元に呼ん で、この家の母方の祖先は公家さんの家柄で、代々伝わる懐剣を長女の護り刀として引き継いでいくのが習わしであることを告げて、見事な黒塗りの刀と秘伝の書を遺してくれたことと、お先祖さまの中に、女性が二人もこの漆黒の懐剣を使って立派に腹切りをして果てていることを教えてくれたことを話したのです。

 目を輝かせながら聞いていた直美が、なお、その後のことを訊くので、やむなく由紀は、自分の部屋へ戻ってから、恐る恐る、懐剣を鞘から引き抜いて鋭い切っ先をじぃ~っと見つめているうちに、何ともいえない妖しい想いがふつふつと湧いてきて、体の芯が萌え上がってきて、それ以来、腹切りが大好きになったことを告げたのでした。

 これを訊き終わった直美は、自分の家系は、会津の貧農の出で、曽祖父母の代に、満蒙開拓団に参加して満州に渡り、敗戦に直面して、曾祖母は黒い鎌で見事に腹を掻き切って果てた、と言い伝えられていて、まだ幼い頃にその話を聞いて、激しく昂奮したことと、その後、会津の土地柄、戊辰戦争における会津の女性たちの悲惨な自害の話を知って、それと曾祖母の話が重なって、女の腹切りに異常な昂ぶりを覚えながら育ったことを告白したのでした。

「それで、由紀さん、その刀は今でも持っていらっしゃるの?」
「えぇ、自衛隊の宿舎の個室に隠して持っているわ」
「じゃぁ、この次に逢うとき、見せてくれる?」
「いいわよ、見て下さいな。でも、隊の中では駄目よ・・」
「分かった、きっと、貴女は腹切りがとても好きなんだね・・」
「そうよ、直美はどうなの?貴女も大好きなんじゃないの?」
「う、うぅん、・・・それは・・・」

 じっと、暫し、燃えるような瞳で、瞬きもせず、相手の瞳を見つめ合う二人・・

 やがて小さく頷いた直美が、由紀に化粧室の場所を訊いたのでした。

 直美を瀟洒なバーを通り抜けて化粧室まで案内し、誘わう直美と一緒に入っていく由紀・・

 2つある化粧の間の前にある鏡のある狭い空間に入ると、後ろ向きになって鍵をかけようとする由紀は、いきなり、直美の強い腕に、後ろから荒々しく抱き寄せられたのです。ぐいと、由紀の首裏に腕を掛けられ、体を捻られて前向きにされたたと思うと、由紀の唇に直美の唇が激しく押し当てられて、舌を押し込まれるのでした。由紀は決して拒まず、しっかりと抱き合った着衣のままの胸と胸を擦れ合わせて、全身で藻掻きながら、悩ましく喘ぐのでした。・・暫らく、そのまま、・・

 やがて扉を開けて、火照った顔をしながら出てきた二人は、席に戻ってグラスの水を飲みながら、乱れた呼吸を整えるのでした。

 暫くしてから、由紀はラウンジの支配人を呼んで何事か囁きますが、頷いた彼は、一旦、離席したあと、ルーム・キイを持って戻ってきました。由紀が直美に向いて、小さく頷くと、二人は一緒に席を離れて出ていくのでした。

 このホテルは74室しかないのに、長期滞在するお客様が半分以上もいらっしゃるので、売り上げの向上を諮るため、いわゆる、デイ・ユースという、時間極めの使用を認めているのですが、それを知っていた由紀が思い切って相談したところ、委細心得た支配人が、折から日曜日のこととて余裕があったので、シャワー付きセミダブルの部屋を1つ、取ってくれたのです。

 部屋に入った直美は、立ったまま腕を伸ばして、しっかりと由紀を抱きしめて、飢えた幼児のように、唇を差し出しながら、激しく由紀の唇に吸い付いてきて、濃厚なキスを始めるのでした。厚くて燃えるようにしなやかな舌を押し込まれて、ねぶりまわされるうちに、何時しか由紀も、直美の首裏に両手をかけて頭を引き寄せながら、長い舌を伸ばして直美の舌と絡ませ合いながら、身悶するのでした。直美は両手で由紀の胴をしっかり引き付け、着衣のまま、互いに昂る胸と胸をこすりつけ合わせ、スカートの上から、太腿をお互いに絡ませ合って、腰を揉みながら、低く呻くのでした。

 長い、長いフレンチ・キスを交わしたあと、漸く体を離した由紀は、荒い息をつきながらベッドに腰かけると、立ったままの直美は、いきなり、上着を脱ぎ捨てると、スカートを捲りあげて、一気に下着もろとも、床に落として、覆うものが何も無くなった下腹部を、驚いている由紀の目の前に曝け出したのです。

「あ、あぁ~っ・・あった!」

 可愛らしいお臍の窪みの下に広がるふくよかに引き締まった白い下腹には、やや薄い逆三角形の恥毛の上辺に沿って、真横に3筋ばかり、切り傷の跡が刻まれていたのです。

 それを見て深く頷き、身を揉みながら感激した由紀は、すっくと立ちあがると、直美と同じように、スカートと下着を脱ぐのももどかしく、丸裸になった下腹を、直美の眼前に誇示したのです。そこにも、直美と同じく、逆三角形の恥毛の漆黒の上辺に沿って真横に3筋と、臍の真下から縦に真っ直ぐ1筋、豊な阜まで伸びた切り傷の跡が、くっきり刻み込まれていました

 先程、化粧室で情熱的なベーゼを交わした時に、二人は、出来れば別室に移って、本当に腹切りが大好きである証しを見せ合うことを望んだのです。

 頬を紅潮させながらすっくと立つ由紀の姿に感激した直美は、いきなり由紀の前の床に跪いて、目の前に見える傷跡に激しく口付けしながら両手で由紀の尻を抱えて、立っていた由紀の体をベッドに押し倒すと、下腹の上にのしかかって長い舌を伸ばして下腹の傷跡を、さも愛し気に、舐め回すのでした。

 直美のこの手荒い愛撫に、全身で悶えながら、由紀も負けてはいません。直美の体をベッドに引きずり上げると、体を入れ替えて直美の下腹に刻み込まれている腹切りの傷跡に唇を当てて舐め回すのでした。全身を震わせながら声をあげて悦ぶ直美!

 こうして始まった二人の激しい愛の営みは何時果てるともなく、続いていったのです。
 かくして、初めてデートした二人が、竹橋にある自衛隊の宿舎に辿り着いたのは、門限ぎりぎりだったのです。

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  1. 2020/02/04(火) 17:16:00|
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